エコマンションの建設日記「第3章−5.潔く」
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マンション建設日記  
━━━(第1章)━━━
1. はじまりのはじまりは出産
2. 不思議な体験
3. 息子の心臓に穴
4. -倒産・再建・そして-
5. 妹の死と廃業
6. 不動産業についての持論と設計の基本
 
7. 二人の助産婦さんと一冊の本との出会い
 
━━━(第2章)━━━
1. 私がシックハウス症候群?
2. 誰に相談するのか?
3. 誰に相談するのか?
-設計士編-
 
4. 設計士さんへの意思の伝え方と契約のポイント
 
5. 建築を知らなくてもできる平面プランの作り方
 
6. むっずかしい〜自宅プラン
7. えっ?好みが違う?
なるほど・・・
 
8. 夫婦で二人三脚
9. 資金計画です。-@
10. やってやろうじゃないの!
-資金計画ですA-
 
━━━(第3章)━━━
1. 遅かった・・・あと1日
2. 何を聞いていたの?
3. 1本の電話から
4. 1億円オーバー
5. 潔く
6. 沈黙のとき
7. 願いのとき
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第3章−5.潔く
“ 決戦のとき”・・・
私はそのとき、まさしく、この日のことをそう自分の中で位置づけていました。
これまでの経過から、もうどう頑張っても「堪忍袋の緒が切れた」状態から脱することができなかったからです。

振り返ってみると、このエコマンション建築に当たっては、交渉ごととして、三つの大きな山がありました。
そして、この“ 決戦のとき”の日のことが、その一つに数えられることに間違いはありません。

しかし今となっては・・・。
「ああなぜもう少し冷静になれなかったのか」と、どれだけ悔いていることか・・・。

その“決戦のとき”が来ました。
寝具の卸問屋の廃業後、その残務整理と「かねくら再建策」に明け暮れていた旧社屋は、例のごとくシャッターが半分閉められ、薄暗い感じの否めないものでした。
「ごめんください。」
その社屋を訪ねてこられたAさんは、この建築のプランが始まって以来、初めてお会いしたにもかかわらず、以前となんら変わりなく、あのいつもの明るい笑顔で、そして何事もないかの様子で立っておられました。
なんと、この建築プランが始まって丸1年!
私は、ようやく、この建築の設計をお任せしている設計事務所の所長さんにお会いすることが出来たのです。
「いらっしゃいませ。」

そうお迎えする私のほうは、そのAさんとは対照的に、顔は紅潮し、怒りの塊のように熱くなっていました!

これまでの過程についての認識に、大きな温度差のある二人は、応接のテーブルにつくやいなや、それをいやおうなしに感じ取っていくのでした。

「お久しぶりです奥さん。突然の電話に驚きました。どうされましたか?」

まさか・・・なにもきいていないの?なぜ、こんなにも冷静に笑っていられるの?・・・
沸点寸前の私の怒りは、お会いするなり最高潮。それを抑えて、なんとかこれまでの経過をお話しするのが精一杯。

まず、主人(当時社長)から、建物外観以外の設計については、すべて私に任されてきたということについて。 そして、この設計計画の当初から、私は、Aさんの部下であるBさん方に、この建築に関してのコンセプト「建物の安全性」を、一貫してずっとお話してきたこと。それは、もちろん予算を含め、その建築の採算性についても、ずっと打ち合わせてきたことについて。 しかし残念ながら、B さんたちは、入札直前になって「エコについての勉強不足」を認められ、とうとう、私のほうからエコ建築についてお教えすることになったこと。等・・・

「エコ」「環境」「次世代のために」「住む人の身になって考えたい」・・・
この計画が始動してから初めてお会いし、私の口から関を切ったように次々と出るこのような言葉に、まるで「何をこの人はこんなに息巻いているのだろうか?」と言わんばかりに・・・A さんが困惑されているのがよくわかりました。

Aさんがおっしゃいます。
「このマンションは、さくらシステムなんでしょ?」
「今まで、他のさくらシステムのマンションや、その他のいろいろなマンションのご相談を受けてきましたけど、結局はローコストマンションを建てられたいのではなかったのですか?」

―「ローコストマンション」―

建築への投資を最小限に抑えて、十分な収益性(利回り)を得るためのマンション・・・

1年経って、契約も済ませた、設計事務所の所長さんに、今更ながら始めから説明をしないといけない煩わしさ・・・

「やっぱり、わかってもらえそうにない!」
何を話しても、事の重大さを認識してもらえそうにないAさんに対して、とうとう極力
抑えてきた腹立たしさが沸点に到達してしまいました!

「わかっていただけないのならもういいんです。先生以外に、私のこの建築への思いをわかっていただける建築家の先生はいらっしゃいますから!」
「えっ!」
その瞬間、私の脳裏には、あの「健康な住まいを手に入れる本」の著者の先生方や、先日、協力を約束していただいた、森先生のお名前が次々と思い出されていました。

「ええ、いらっしゃいます。日本中に何人もいらっしゃいます!」
そう言ってしまった私の唇は、あまりの興奮に震えていました。そして両方の拳は、たくさんの汗を握りしめていました。
「ドクッ、ドクッ、どくっ!」爆発しそうな鼓動が、今にも自分の体からはみ出してしまいそうです。

「ほんとうですか?」
Aさんから笑顔が消え、しだいに表情がこわばっていきます。

「Bさん方から、何も聞いていらっしゃらなかったのですか?」
「いえ聞いていました。奥様がなかなか満足していただけないことは。」
よって、A事務所で先生自身が最も信頼する所員であるI・Cさんを、打ち合わせのメンバーに加えられたということでした・・・
「彼女が一緒なら間違いない。大丈夫だと思っていました。」
Aさんは、I・Cさんに絶対の信頼を寄せておられたようです。ですが結果は、現実は変わらなかった・・・なぜなのか・・・。

私は、これまでの打ち合わせの経過を、細部にわたり詳しく話しました。
なぜ、本当に立派な人格のI・Cさんが加わっても、私の悩みは解決するどころか、かえって増幅していったのか・・・。その原因は・・・

Aさんの事務所と私とでは、残念ながら
建築についての価値観が、決定的に違っていたのだ!―
ということを・・・

「Aさんに初めてお会いしたあの頃の私と、今の私との違いは、なによりも出産を経験し、母親になったということなんです!」

最愛の妹の死、長い不妊生活、ようやく授かった命。切迫流産を繰り返し、死にものぐるいで産んだ我が子。その子の心臓に穴・・・少しでもおいしいおっぱいを飲ませようと一生懸命がんばった日々。
自分ではまだ何もできない赤ちゃんが、私の腕の中で、おっぱいをくわえて、まっすぐな目で私を見つめてくれる・・・そして、すべての信頼を寄せるかのように安心しては眠っていく・・・母乳育児の悦び。
ようやく這い出したといっては喜び、立ったといっては喜び、初めの一歩に感動し・・・片言を話しはじめ、少しずつ自我が目覚め・・・。
高い熱に夜を徹して看病した日々。おかげさまで、検診のたびに、回復していった息子の心臓!

現在、私は、小さい子どもの育児の真っ最中。
その育児をとおしてわかったこと。それは、「子どもは皆、自然が大好き!」だということ。石ころ、水、土、葉っぱ、木の小枝・・・それさえあれば何時間だって遊んでいられる・・・子どもたちが、大好きな大好きな自然や動物たち・・・それらに囲まれ、このまま純粋にすくすくと育っていって欲しい。健康に!・・・親なら誰もが持つ純粋な願い。

私の脳裏をこれまでの苦しみや、悲しみや、喜び・・・様々なことが、走馬灯のように駆け抜けていきます。

そしてその大事に育てている我が子が、私が、そして私の母までも、建物から健康被害を受けた可能性があったという事実。

その二つの体験を通して得た、私の建築への思い・・・そのコンセプトはただ一つ。

次世代を担う子どもたちに残していける建物
そのために、最低限必要な事業収益を守りながら、何よりも中に住む人たちの健康に配慮したものでなくてはならない。
建物で健康を害することがあっては絶対にならない。・・・

「無知だった。」
ようやく、Aさんの口から、それを認めた言葉が出始めました。

「さくらシステムと聞いただけで、いつものように、オーナーさんが喜ばれるローコストマンションを設計するということしか、正直言って頭にありませんでした。」

「この建築の施主は、かねくらさんだから、会長であるお父様や、社長であるご主人とは、お会いしていましたから、それでいいと思っていました。」
「環境に配慮した建築ということでは、太陽熱利用のことなどは知っていましたが、まさか建物に使う建築資材から、体に有害なものが出るとは・・・知りませんでした。」
「うちの所員を信じていました。今日お聞きしたようなことまでは、報告を受けていませんでした。」

深くうなだれたAさん。そしてそのA さんの目には、うっすらと涙が光っていました。
明らかに悔し涙だったと思います。
 ここ数年、熊本内外で、飛躍的に仕事を伸ばしてこられた方です。
年下の、しかも私のような建築の素人である女性からここまで言われ、そしてここまで言わされた悔しさは、何物にも代えがたいものだったろうと思います。

「申し訳ありませんでした。先ほど、奥さんのことをわかってくださる建築家がおられると言われましたね。」
「はい。」
「わかりました。これ以上は何を言っても言い訳に過ぎません。潔く、この建築からは、はずさせてください。辞退させてください。・・・」
「ですが私もプロですから、これから奥さんが言われたようなことを含めて、もう一度勉強し、やりなおします!」

「そうですか。わかりました。・・・残念ですけど・・・」
「素人の私が、失礼ながら、こんなことまで話してしまって、私も申し訳なく思っています。ですが、待っても待っても、先生とお会いできなかった。本当に私は待っていました。数年前、一緒に“老人保健施設”の設計の打ち合わせを、夜遅くまでさせていただいきました。・・・あの頃の先生が、私は大好きでした。あの頃の先生から比べると、今の先生は偉く大きくなり過ぎてしまわれて、私の声は届かなかったのではないでしょうか。本当に残念です。」

私の中で、こんな結果を歓迎すべきか、どう受け取めていいのか、正直に言ってわかりませんでした。
「ただ、こういう結果を招いたのは、向こうに責任があることだから・・・仕方がないじゃないか・・・」
当時の私には、そういう解釈しかできませんでした。

本当に潔く結論を出されたAさんは、応接のソファーからすっと立ち上がり、
「それでは、奥さんも体に気をつけられて。どうぞ、お父様やご主人にも宜しくお伝え下さい。」

そう言われて、旧社屋を後にされました。

そのAさんの表情は、もう穏やかでした。
そして、あの「老人保健施設」を一緒に作った、あの頃の一生懸命な目が、ようやく戻ってこられたのを感じました。

残された私は、ただ、自分の中に鬱積していたものをすべて吐き出した虚無感と、何かが「終わった」という収束感だけを感じていました。

Aさんとの別れだ」と思いました。
 

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